現代のヴァーチュオーゾ。ソロギターで贈るジャズ・スタンダード集。
指板上を踊る縦横無尽のフレーズ。
ギターという楽器の新たな可能性を示した名盤
1930年代のギターのエレクトリック化に伴って、急速に発達して行ったジャズギター。管楽器にも負けない音量を手に入れたギターを駆使して、様々なギタリストは時に管楽器の様に、時にピアノの様にメロディとハーモニー表現の可能性に挑戦して来ました。
80年代から様々なエフェクターも発達し、エレキギターの可能性は無限大になって行きます。
しかしながら、ギターのフィンガーボード上にもまだまだ可能性があり、探究に値すると改めて思わせてくれるのは、ギターとアンプのみのシンプルなセットで奏でられるプレイ。
今回ご紹介する『Solo Standards Vol.1 / Pasquale Grasso (2019)』はそんなトラディショナルなスタイルでのギタープレイを無伴奏、ソロギターで演奏される本作は、ギターの無限の可能性を感じさせてくれる素晴らしい作品です。
イタリアの至宝。クラシックとジャズの融合によるシグネチャーサウンド。
超絶技巧とオーガニックなトーンのルーツ
イタリアのカンパーニャ地方の田舎町で育ったパスクァーレ・グラッソ。兄ルイージが喘息の治療のためアルトサックスを始めたのがきっかけで、楽器に興味を持ったパスクァーレは、楽器店でギターを見て惹きつけられ、ギターを始めます。そして2人とも独学でメキメキと実力をつけていきました。
NYで活躍していたジャズギタリスト、アゴスティーノ・ディ・ジョルジオが高齢の祖父母の介護のためにイタリアに移住してくると、パスクァーレはアゴスティーノに師事します。
ギターにのめり込むパスクァーレに、ジャズ愛好家の父はジャズ以外にも様々な音楽を与え、中でもクラシックギターのコンサートで衝撃を受けたパスクァーレはボローニャ音楽院に進みます。そこでクラシックとジャズのプレイスタイルを磨き上げていきました。
兄、ルイージグラッソ
兄ルイージグラッソは現在イタリアで最も人気のあるサックスプレイヤーのひとり。13歳でレコードデビューし神童と呼ばれたルイージは、現在パリ在住、パリ音楽院教授を勤めながら、世界中のアーティストと共演。様々なプロジェクトで弟パスクアーレとも共演しています。2011年結成の『ルイージグラッソカルテット』では弟パスクァーレと共に2年で世界22ヵ国を回ります。
その後の2015年にパスクァーレは、ニューヨークで開催されたウェスモンゴメリーインターナショナルジャズギターコンペティションで優勝。パットマルティーノトリオと共演を果たします。コンテンポラリージャズギターのパイオニア、パットメセニーもパスクァーレを高く評価しており、最高のギタリストと賛辞を送るなど、高い評価を受けています。
現在はニューヨークに拠点を置き活動しながら、自身のソロ作の連作をリリース。今回ご紹介している『Solo Standards Vol.1 / Pasquale Grasso (2019)』も、その中の一枚です。他に『Solo Ballads Vol.1』『Solo Monk』『Solo Holiday』がリリースされています。
一本のギターで奏でられるとはにわかに信じ難い、巧みなメロディとハーモニーを織り交ぜたプレイ、クラシックギターを思わせる超絶技巧をさらりと弾きこなすパスクァーレ・グラッソ。気に入っていただけたら幸いです。
『Solo Standards Vol.1 / Pasquale Grasso (2019)』収録曲
Just One of Those Things
1935年コールポーター作曲。ミュージカル『Jubilee』のために書かれた曲で、失恋を『よくあることさ』と自分に言い聞かせる内容の歌で、1954年公開フランクシナトラとドリスデイ主演の映画『Young At Heart』の劇中でもシナトラによって弾き語りで歌われる。ジャズスタンダード。
This Time the Dream’s on Me
ハロルドアレン作曲ジョニーマーサー作詞。1941年公開映画『Blues in the Night』のために書かれた曲で、後にウディ・ハーマン楽団やグレン・ミラー楽団などの録音で有名になった。『私の夢が叶うのは』と甘い恋心を歌うこの曲は、多くのジャズジャイアンツに愛されプレイされている。
All the Things You Are
ジェロームカーン作曲オスカーハマースタイン2世作詞。1939年のミュージカル『Very Warm for May』のために書かれた曲。『君こそ我がすべて』と歌われるラブソングだが、巧みな作曲で転調を駆使して12音階の全てをルート音とするコードを使用していることからジャズセッションでよく演奏されるスタンダード。
Dancing in the Dark
ハワードディーツ作曲、アーサー・シュウォーツ作詞。1931年レビュー『The Band Wagon』のために書かれた。新しく始まる恋に胸を躍らせる曲。ビングクロスビーのレコーディングから、様々なアーティストによってプレイされている。
Tea for Two
1924年ヴィンセント・ユーマンスがアーヴィング・シーザーの台本に曲付けしたミュージカル『No, No, Nanette』で使用され、1950年公開のミュージカル映画『二人でお茶を』ではドリス・デイとゴードン・マックレーがデュエットした、甘い生活を夢見る男女のチャーミングな曲。
2020年3月、今作を含むソロギタープロジェクトの集大成『Solo Masterpieces』がリリースされました。詳しくはこちらをご覧ください。