【Jazz Guitar】Reflections / Kurt Rosenwinkel Standard Trio (2009)

コンテンポラリージャズの帝王が贈るジャズスタンダード集

ギタートリオで綴られるオーガニックなサウンドスケープ

名手カートのプレイするスタンダードの世界

過去、伴奏楽器でしかなかったギターという楽器。その可能性を押し広げるべく生まれたのがエレキギターです。蓄音器のピックアップシステムに着想を得て生まれたギターのピックアップマイクシステムにより、エレキギターがこの世に生を受けてから、様々なギタリストがこの未知の可能性を秘めたエレキギターという楽器に魅了され、様々な可能性を模索してきました。

現在知られているエレクトリックギターの歴史は、1931年からとさほど深くはなく、未だに新しい試みがなされていますが、増幅装置(アンプ)によって出音されるエレキギターは、人が抱えられる大きさの筐体を共振させるアコースティックギターとは違う魅力があります。

今回ご紹介するのは、エレキギターでまるで空間ごと鳴らしているかの様な素晴らしいギタートーンで、ジャズスタンダードを楽しめる名盤『Reflections / Kurt Rosenwinkel Standard Trio (2009)』です。コンテンポラリージャズの世界で、帝王と呼ばれるエレクトリックギターの名手、カートローゼンウィンケルのギタートーンの魅力が詰まった1枚です。

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イーストリバーの水面に映る夜のマンハッタン。

ネイビーブルーで綴られるブルックリンのブルー。

East Coast Love Affair 以来のスタンダードトリオ

本作のリーダー、カートローゼンウィンケルはアメリカのギタリストで、本作レコーディング時はニューヨーク市ブルックリンを拠点に活動していました。本作もブルックリンのスタジオでレコーディングされています。

ネイビーの背景に描かれる、夜の街並みのリフレクション。ブルックリンからイーストリバー越しにマンハッタンを臨んだ様な美しい幻想的なジャケットが印象的な本作ですが、おそらくカートも見ていたであろうその夜景の様な、非常に透明感溢れるブルーで彩られています。

カートがトリオで演奏するのは1996年リリースの、初のリーダー作『East Coast Love Affair』以来となります。非常にリラックスした雰囲気でレコーディングされており、実験的なサウンドメイクやプレイも多いカートの作品の中では聴きやすいアルバムです。

ベースにはエリックレヴィス。ロサンゼルス生まれの彼は、Stingのバックバンドなどで知られるブランフォードマルサリスのバンドメンバーとしても活躍。自身のリーダー作も発表しています。

ドラマーにはエリックハーランド。様々なアーティストと80を超える録音で取り上げられています。 『Let’s Get Lost』『Wandering Moon』(Terence Blanchard)『Back East』(Joshua Redman)『Land of Giants 』(McCoy Tyner) でグラミー賞にノミネートされ、その他 18もの映画音楽でプレイしている実力派の人気ドラマーです。

Reflections 収録曲

Reflections

ピアニスト、セロニアスモンク作曲。モンクは独特のスタイルとソングライティングで数々のジャズスタンダードを生み出した鬼才で、マイルスデイビスの『’Round Midnight』はモンクの作。ピアノもプレイするカートの、コードソロプレイから幕を開ける、まさにネイビーとネオンに彩られたジャケットのイメージ通りの詩的なサウンド。

You Go To My Head

1938年ジョンフレデリッククーツ作曲。ビリーホリデイの録音で知られるこの曲。酒に酔う、混乱する、というダブルミーニングのこのタイトル通り恋心を歌った曲で、デイブブルーベックやビルエバンス、フランクシナトラなどもプレイしている美しい曲。

Fall

マイルスデイビスの1967年のアルバム『Nefertiti』に収録されている、ウェインショーターの作曲。ヒップホップのトラックにインスピレーションを受けたバスドラムの変則パターンとギターのコントラストが印象的なテイク。

East Coast Love Affair

カートローゼンウィンケル作曲のこの曲は、1996年の初リーダー作『East Coast Love Affair』にもオープニングナンバーとして収録されている。ギターソロで始まる本作のテイクは、シンバルの余韻とギターが溶け合う様な美しいサウンドスケープを織り成し、収録曲中で最も印象的。

Ask Me Now

こちらもセロニアスモンク作。コードワークに特徴があるモンクの曲でのカートのギターはとても浮遊感あるプレイで、トーンと相まって本作のネイビーとネオンのイメージを強く印象付けている。

Ana Maria

1974年ウェインショーターのアルバム『Native Dancer』収録された曲。亡き夫人アナマリアのリクエストで書かれた曲。

More Than You Know

1929年ヴィンセントユーマンズ作曲。ブロードウェイミュージカル『Great Day』のために書かれた曲で、『あなたが思うよりずっと、私はあなたを愛している』というロマンチックな曲。エラフィッツジェラルドやサラヴォーンを始め、様々なアーティストによって演奏される人気のスタンダード。

You’ve Changed

ビルキャリーとジョージフィッシャーによる1942年の作。心変わりをした恋人に向けての思いを描いた切ない曲で、こちらもビリーホリデイなどに歌唱され、愛されているスタンダード曲。

マンハッタンの夜景を描く、エレキギターの美

いかがでしたでしょうか。一般的なジャズスタンダード曲集とはまた違った、カートならではの選曲も本作の聴きどころ。スタンダード曲ながら、コンテンポラリージャズの独特の浮遊感もあり、ギタリストにとっても聴き応えのあるアルバムです。

しかしながらこのアルバムの素晴らしさは、ジャケットに描かれたマンハッタンの夜景のイメージをトリオという最小単位でエレキギターを軸に表現されているところではないでしょうか。生まれて間もないエレキギターという楽器の芸術的表現の可能性の、ひとつの美しい結実として、本作『Reflections / Kurt Rosenwinkel Standard Trio (2009)』は21世紀の音楽史に輝くギターアルバムの名盤だと思います。気に入っていただけたら幸いです。

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Reflections Kurt Rosenwinkel Art Work
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