ソニーロリンズの復活作にしてクリフォードブラウンの遺作
レジェンド夜明け前のサウンド。
ハードバップのテナーサックスプレイヤーとして、リラックスしたスタイルのプレイで知られるソニーロリンズ。ジャズの歴史を体現する長いキャリアから、名演は数えきれないほどありますが、伝説のプレイヤーにも若手の時代があり、その後のキャリアにとって重要な意味を持つ演奏があります。
1950年にマイルスデイビスと出会い、キャリアを広げていたソニーロリンズですが、1954年にはドラッグからの更正のため活動を休止。その後トランペットのクリフォードブラウンとドラマーのマックスローチによるクインテットに、ハロルドランドの代わりとして参加し、復帰を果たしたのが本作『Plus 4 / Sonny Rollins (1956)』です。
レコード会社との契約上ソニーロリンズのリーダー作になっていますが、実質はクリフォードブラウン&マックスローチ クインテットの作品としてリリースされた本作。
ソニーロリンズはサイドマンながら、2曲のオリジナル曲を書くなど作品に大いに貢献しており、本作は数ヶ月後に録音されたソニーロリンズの代表作『サキソフォンコロッサス』に繋がる、重要な作品でもあります。
クリフォードブラウン最後の録音
トランペットのクリフォードブラウンとピアノのリッチーパウエルは本作録音の3ヶ月後、交通事故により他界してしまいます。本作はクリフォードブラウン最後のレコーディングになります。
クリフォードブラウン(1930年10月30日 – 1956年6月26日)は、1940年代ビバップジャズを類稀なテクニックで駆け抜けた夭折の天才トランペッター、ファッツナバロの再来とも呼ばれるほどの実力で、ハードバップ期のジャズにおいて最も重要なトランペッターのひとりです。
様々なレコーディングにも参加し、ハードバップの幕開けを告げるアートブレイキーの名盤『A Night at Birdland Vol.1 (1954)』にも参加。豊かな音色と流麗なフレージングの持ち主で、ブラウニーの愛称で愛される存在でした。
本作でも、素晴らしい音色とフレージングでアンサンブルをグイグイ引っ張っていくブラウニーのプレイが全編で楽しむことが出来ます。
モダンジャズドラムの先駆者マックスローチ
10歳の頃にはゴスペルバンドでドラムを叩いていたというマックスローチ。18歳にはミントンズ・プレイハウスやモンローズ・アップタウン・ハウスなどのジャズクラブでジャムセッションに参加するようになり、チャーリーパーカーやディジーガレスピーなどのビバップの先駆者たちと共演。1943年にコールマンホーキンスのグループで活動。1945年から1953年にかけては、チャーリーパーカーの多くの録音に参加。同時期にはディジーガレスピーやマイルスデイビス等の録音にも参加しています。
『歌う様なドラミング』と称されるマックスローチのドラミングですが、『ミスターハイハット』との異名を持つ彼のプレイはクリフォードブラウン&マックスローチ クインテットの作品でも非常に華麗かつ小気味良いハイハットワークを聴くことが出来ます。
ピアニスト、リッチーパウエル。
ピアノのリッチーパウエル(1931年9月5日 – 1956年6月26日)は、『バドパウエルの弟』として語られる事が多いのですが、彼にとってこのクインテットは大きなキャリアのスタートでした。クリフォードブラウンとマックスローチという天才、そして後のレジェンドとして才能を開花させつつあるソニーロリンズの中にあって、ソロイストを支える堅実なプレイを聞かせてくれます。
もし、彼がこの後も生きて活動をしていたら、このカルテットが活動を続けていればどんなプレイを聴かせてくれたのでしょう。
ベーシスト、ジョージモロウ。
ベーシストはジョージモロウ(1925年8月15日-1992年5月26日)。このレコーディングの後クリフォードブラウンとリッチーパウエルが事故死したことにより、このクインテットは解散します。しかしジョージモロウはこの後もマックスローチとのリズムセクションで活動を続け、後のソニーロリンズの録音でも活躍しています。
それぞれの人生のそれぞれの背景、終わりと始まりのほんの僅かなすきまに生まれた奇跡の様な本作。プレイヤーの笑顔が浮かぶ様なこの録音を気に入って頂ければ幸いです。
Plus 4 / Sonny Rollins (1956)収録曲解説
Valse Hot
ソニーロリンズ作曲。Valseとはワルツの意味で、8分を超える曲でゆったりとしながらもホットなジャズワルツに仕上がっている。それぞれのソロ回しが楽しく、リーダークレジットのソニーロリンズからソロが始まり、雄大なフレージングのクリフォードブラウン、少し緊張した面持ちのリッチーパウエル、歌う様なマックスローチのドラムソロへと繋がれる。プレイヤーそれぞれの顔が浮かぶ様な好テイク。
Kiss and Run
1950年サムコスロウ作曲。Valse Hot のゆったりした演奏から一転、火のついた様なユニゾンテーマから始まり、ソニーロリンズとクリフォードブラウンのお互い割って入る様なソロの掛け合いが小気味いいテイク。リッチーパウエルのピアノソロも弾ける様なフレージングで、メンバー全員が楽しんでプレイしているのが伝わる。
I Feel A Song Coming On
作曲家ジミーマクヒュー作曲。ソニーロリンズとクリフォードブラウンのソロの掛け合いはこの曲でもエキサイティングに展開し、マックスローチのドラミングも熱を浴びて来る。決まったサイズのソロ回しではなく、それぞれが絡み合いながら展開していくスリリングなテイク。
Count Your Blessings (Instead Of Sheep)
1954年公開のビングクロスビー主演映画『White Christmas』のためにアーヴィングバーリンによって書かれた曲。バラード調にプレイされているこの曲はリッチーパウエルのピアノが美しく、ソニーロリンズ、クリフォードブラウン両者の情感豊かなプレイが聴くことが出来る。
Pent-Up House
ソニーロリンズ作曲。ゴージャスで印象的なテーマで始まるこの曲は、このセッションの最後に相応しい、突き抜ける様な楽しさ溢れる演奏でこの録音を締めくくってくれる。この曲も8分を超えるテイクだが、それぞれのメンバーのチャーミングなフレージングの応酬で時間を忘れさせてくれる。この曲はジャズスタンダードとして今も様々なアーティストにプレイされている。