使用木材と開発史からみるストラトキャスターのサウンドの違い

使用木材からストラトを選ぶ。

それぞれの木材特有の音響特性から選ぶ理想のサウンド

開発史からみる使用木材変遷と音響特性

現在、ストラトキャスターのラインナップはFender社だけでも相当な数があり、他ブランドのストラトキャスタータイプモデルもかなりの数がリリースされています。

ストラトキャスターはエレキギターの定番モデルですが、選ぶ際に非常に迷うモデルでもあります。そこで、まず選ぶ際の基準として、木材の種類に着目してみてはいかがでしょうか。

今回はストラトキャスターの開発史から、使用木材の変遷とそれぞれの木材の個性について見ていきたいと思います。

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Fenderの歴史と使用木材の変遷

アッシュからアルダーへ、メイプルからローズへ

1954年にストラトキャスターが発売された当時、ボディ材にはアッシュ材が使用されていました。Fender社が先にリリースしていたテレキャスターはナチュラルカラーの物で、木目の美しいアッシュ材が選ばれた様です。

White Blonde、2 Color Sunburst などがラインナップされ、どのカラーも木目を活かしたカラーでしたが、アッシュ材は硬く量産に適さないという理由もあり、1959年に加工の容易なアルダー材に変更されます。

この年、指板材をメイプルかローズウッドかを選択出来る様になり、カラーにもアッシュに比べ木目の薄いアルダーに合わせ 3 Color Sunburstがラインナップされています。1960年から指板材はローズウッドのみとなり、1964年には指板材の接着方法にラウンド張りが採用されます。

1959~1964年初頭までのスラブボード張り(接着面が平らで中央部が分厚い)だと使用するローズウッドの量が多いので現在でも人気なのですが、各弦の鳴り方の均一化や接着面のズレが起こりやすいなどの理由での変更ですので、ラウンド張りかスラブボード張りか好みが分かれるところです。

その後、木材の違いによるサウンドの違いのニーズが広まったことで、どちらも選択出来る様になって行きます。その他経営体制の変化などもあり、ヘッド形状なども変更されて行きますが、それはまた別のところでお話出来ればと思います。

ボディ材によるサウンドの違い

アッシュ材の魅力

アッシュ材は加工の困難さから分かる様に、硬めの木材です。硬めの木材は音像がクリアになるのが特徴で、アッシュ材もその分類に入ります。

アッシュボディは、上記の歴史からメイプル指板とマッチングされる事が多く、立ち上がりの速いメイプル指板と相まって強いアタック感とブライトな音色になります。

クランチトーンでの枯れたストラトサウンドやFenderらしい荒々しいストロークサウンドなどが印象的ですが、フロントPU+トーン4~5のセッティングで弾いても丸くなり過ぎず非常に強い音像のクリーントーンも出力出来るので、クリーン、クランチで演奏される様々なジャンルが向いているかと思います。

また、アルダー材と比べて美しい木目を持ち、高級感のある仕上がりの個体が多いのも魅力のひとつでしょう。深く艶やかな木目の美しさと、使い込まれたFenderギターの貫禄のマッチングは非常に魅力的です。

引用元 shop.fender.com

枯渇するアッシュ材の現状

近年アッシュ材は年々調達が困難になって来ており、Fender社もアッシュ材から代替材への移行やアッシュ使用モデルの生産完了が多く起こっています。他メーカーでも、ボディ材に使用する際に2ピースから3ピースにする、などの仕様変更や価格改定などの動きが見られます。

今後入手が難しくなっていくでしょう。

アルダー材の魅力

歴史的に見ると、ネガティブな理由もあり使われ始めたアルダーですが、音響特性上ピーキーなアッシュ材から落ち着いたサウンドのアルダーへの変更はロックギターの歴史上重要な変化をもたらした転換点でした。

元々バッキング専門の楽器であったギターを、エレキ化し音量を上げる目的で作られたエレキギターの音量はロックミュージックの隆盛と共にあがり続け、音量だけでなく音圧も求められる様になりました。

その点で、低音域から中音域にかけてのレンジのバランスの良いアルダー材への変更はポジティブな仕様変更になったと思います。

アッシュ材に比べて粘りのあるサウンドと評されるアルダー材ですが、木材の持つ倍音が豊かでアッシュ材よりも奥行きのあるサウンドになる傾向があり、アタッキーになり過ぎず様々なジャンルで使われています。

木目がアッシュに比べて薄めではありますが、程良く入った木目とサンバーストカラーとのマッチングは、これぞFenderといった趣があり、世代を超えて愛されるロックアイコンとなりました。

引用元 shop.fender.com

バランスの良い音響特性から、使われていないジャンルを見つけるのが難しいほど、オールジャンルで使用されるFenderの代名詞になった木材でしょう。

指板材によるサウンドの変化

ローズウッドかメイプルか

ストラトキャスターにはローズウッドかメイプルの指板材がよく使われます。アルダーとアッシュの違いを感じていただくと、おのずと木材の硬さの違いによる音質の変化の傾向がご理解いただけるかと思いますが、ローズウッドの方が比較的柔らかく、メイプルは硬めの木材ですので音質の傾向もそれに準じて変わってきます。

木材の密度が低いほど倍音が発生しやすく、倍音が豊かになりますが音像がぼやける傾向にあります。

ネック材と異なる木取りの指板材をネックに貼ることで木材同士のクセを相殺し、ネックの強度向上も狙いのひとつである事から、比較的硬めの木材が指板材に使用されることが多いのですが、木材の性質によりおおまかにこの様な違いがあります。

ローズウッド アタックは柔らかめ 倍音が豊か

メイプル   アタックは硬め  明瞭な音像

その他の指板材

その他、指板材としては一般的にエボニー材があります。エボニー材は水に沈む木材として知られており、かなり密度の高い木材です。近年ギターに使用される木材は貴重になって来ており、代替材としてリッチライトなどの合成素材が代用されたり、比較的入手しやすいサスティナビリティのある天然木にて代用されることも増えて来ました。

余談になりますが、ヴィンテージギターには、現在ワシントン条約にて保護されている木材が使用されているものもあり、輸出入に別途手続きが必要なものもあります。現在では非常に貴重な木材を使用し、現存個体数も少ないことから年々ヴィンテージギター市場は高騰していく傾向にあります。

ワンピースメイプルか貼りメイプルか

メイプル指板の場合、指板材が貼りメイプル(ネック材と指板材が別のメイプルで成形され貼り付けられている)なのか、ワンピース(ネック材と指板材が1本の木材から削り出され成形されているもの)なのかでもサウンドに変化があるようですが、ネック形状の違いによる違いも多く指板材自体の違いほどの変化は感じられません。強度の面でみると、貼りメイプルの加工方法の方が若干強くなるようです。

スタンダードなストラトキャスターの木材の組み合わせ

最もポピュラーなストラトキャスターの木材の組み合わせは、

ボディ材 アルダー

ネック材 メイプル

指板材  ローズウッド

でしょう。様々なジャンルで使用されていますので、ポピュラーなものをお探しの方は目安となる組み合わせになります。

木材による音質の変化については、ピックアップやアンプ、エフェクターなどの要素と比較すると小さなものではありますが、音作りをしていてあと一歩届かない、という時に見直すべき要素ですし、何よりプレイする上でプレイヤーがダイレクトに違いを実感する重要な要素ですので、目指すアーティストがどういった木材の組み合わせのギターを使用しているのか調べてみるのも理想のサウンドへの目安になるかと思います。

アーティストモデルの使用木材にも着目

ストラトキャスターには多くのアーティストモデルも用意されており、特別な機能や仕様を備えたより実戦的なモデルもあります。

ERIC JOHNSON SIGNATURE STRATOCASTER THINLINE はストラトキャスターシェイプながらシンライン(ボディの半分のサイドをくり抜き軽量化と独特のサウンドを狙ったもの)という特殊な仕様で、F字をあしらったサウンドホールの意匠がデザイン的にも素晴らしい一本です。

木材の選定などにもアーティストのこだわりが反映され、非常に品質の高いモデルです。

その他、通常ラインナップにはない限定カラーやスペックのもの、Fender社以外のブランドでも高品質なモデルが数多くあり、選択肢は無限に存在します。ご自身の愛器をお選びいただく際に、基本となる木材のコンビネーションを目安にしていただくと、ご納得頂けるチョイスが出来るかと思います。

トップ+バック材の組み合わせでのバリエーション

Gibson Les Paul で提示された、異なる木材を組み合わせてボディを形成する手法は、ルックスもさることながらサウンド面においてもサウンドを引き締める役割を果たしています。

アッシュ材にメイプル材を張り合わせたボディであれば、アッシュのみのボディよりもまとまりの良いサウンドになります。

モダンハイエンドギターでは多く採用されている手法ですので、新しい選択肢のひとつとして魅力的なチョイスとなります。

エレキギターのサウンドを左右する要素はたくさんありますが、プレイヤーに1番近く、振動の仕方など最もダイレクトに体感出来る要素としての木材の違いについて、ストラトキャスターの開発史と共に振り返ってみました。より理想のトーンに近づくための参考になれば幸いです。

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