愛の悲しみへの処方箋
Paul Desmond のアルトサックスと Jim Hall のギターが優しく包みこんでくれるひと時
名曲『Take Five』を生んだ名手
ポールデスモンド(Paul Desmond、1924年11月25日 – 1977年5月30日)は、デイブブルーベックカルテットのサックスプレイヤーで、本作品はソロ名義のアルバムです。デイブブルーベックカルテットのヒットアルバム『Time Out』に収録されているキラーチューン『Take Five』の作曲者でもあり、多才な音楽家でもあります。
そんなポールデスモンドの1964年の作品が今回ご紹介する『Grad to be Unhappy』です。ギターの名手ジムホールとの共演も本作の魅力で、ポールデスモンドのアルトサックスの柔らかな響きと、隙間を縫う様に紡がれるジムホールのギターが全編で堪能出来ます。
ジム・ホールはソロにおいても非常に評価の高いギタリストですが、数多くのアーティストと共演をしており、共演作としても代表作となる素晴らしいアルバムです。
『不幸で良いの(Glad to be Unhappy)』というタイトル通り、愛において、すれ違いの悲しみを優しく癒してくれるバラードアルバムの名盤です。
Personnel
Paul Desmond – alto saxophone
Jim Hall – guitar
Gene Cherico (track 2), Eugene Wright (tracks 1 & 3-10) – bass
Connie Kay – drums
Glad to be Unhappy という愛の不条理
片思いの気持ちを美しく昇華するメロディ
表題曲は1936年にミュージカル『On Your Toe』のためRichard Rodgers作曲、Lorenz Hart作詞により制作された楽曲です。Jazzではエラフィッツジェラルドやビリーホリデイ、フランクシナトラなどの歌唱で親しまれスタンダード曲になっています。近年ではジョンメイヤーがクリスボッティとの共演で歌ったテイクもあり、様々な表現で歌われる素晴らしい楽曲です。
『片思いでも愛するあなたが幸せなら私は幸せ』だと歌われるこの表題曲ですが、複雑でありながらも、誰しも経験したことのある片思いの悲しい気持ちを美しく浄化してくれる名演が、ポールデスモンドのこのアルバムのオープニングチューンとして収録されています。
ポールデスモンドの優しい音色でのソロ、ジムホールのダブルノートで弾かれる少しレイジーなソロやバッキングが片思いの悲しみと、愛の深さを絶妙なコンビネーションで表現してくれています。
このジャケットの謎めいた美女の肩には雨傘がさされており、ドラムのブラシワークのサウンドが静かに降る雨音の様な感覚を覚えます。失恋に傷ついた心を雨が優しく包み込んで癒してくれる。誰かを愛した傷が痛む、そんな夜に聴きたいアルバムです。
楽曲構成もとても良く、最後まで聴いていると最後には少しだけ前に進もうと思えるかもしれません。そう思えるまで、悲しみの雨に身を任せてみるしかないのも愛の悲しみ。この優しい音色に身を任せてみてはいかがでしょうか。
1964年にも、どこかで誰かが同じ気持ちでこのアルバムを聴いていたと思うと不思議な感覚に陥ります。
それぞれの Angel Eyes
このアルバムに収録されているもうひとつの名曲 Angel Eyes は、ポールデスモンド、ジムホールともそれぞれ別の場所で録音していますが、この収録テイクはまた独特の魅力があります。是非それぞれの録音を聴いてみて下さい。こうしたプレイヤー同士のケミストリーを感じる瞬間もJazzを聴く楽しさのひとつだと思います。
同じ楽曲でもアーティストの解釈やプレイで大きく表情が変わるものJazzの楽しさのひとつ。Jazzの楽しみ方のひとつとして、少しでも参考になれば幸いです。