【Rock】Grace / Jeff Backley (1994)

たった1枚のアルバムで世界のロック史に名を刻んだ夭折のシンガーソングライター

セカンドアルバム制作中の悲劇

1997年5月29日 セカンドアルバム制作中、スタジオの側のミシシッピ川で突然の死を迎えたジェフ・バックリィ

行方不明から5日後に発見された謎の死には遺書などもなく、事故死とされていますが、彼の死は永遠に謎のまま。次作へ向けて懸命に取り組んでいた彼を襲った悲劇は、皮肉な事に彼の神聖性を更に高めてしまったのかも知れません。

今回は『天使の歌声』と称されたファルセットボイスと、時に澄み渡った湖面の様に繊細で時に荒れ狂う嵐の様な激しさのギタープレイでファーストアルバムにして伝説となったジェフ・バックリィの1st Album『Grace』をご紹介します。

ティム・バックリィの息子として

60年代のフォークシンガー、ティム・バックリィの息子として生まれた彼ですが、ティムの深刻な薬物依存から、ティムの死まで殆ど会う事なく育ったといいます。

ピアニストであった母の影響から、早くから音楽に興味を持ち、高校卒業した後にハリウッドの音楽学校MIに入学。1年間音楽の基礎を学んだ彼は、バイトをしながら演奏活動を続けます。

バンドやソロ、様々な形態で1990年にはニューヨーク、その1年後にはロサンゼルスと拠点を移しながらチャレンジしたものの、なかなかチャンスに恵まれない日々。そんな日々は会うことのなかった父のトリビュートライブへの参加で一変します。

音楽業界の注目を集めた彼は、さらに精力的に活動を続け、1992年、ついにコロムビア・レコードと契約。1993年にイースト・ヴィレッジにあるクラブ『Sin-e’』での弾き語りでのライブを収めた4曲入りEP『Live at Sin-e’』をリリース。本格的にスタジオアルバム制作に入り、1994年9月 完成したのが本作『Grace』です。

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静寂と激情の入り混じる清らかな魂のサウンド

静かなウィスパーボイスとシンプルなギターのアルペジオで幕を開ける『Mojo Pin』。レナード・コーエンの名曲をカバーした『Hallelujah』など、後のロックバンドに多大な影響を与えました。今やワールドクラスのアーティストとなったRadio Head のボーカル、トム・ヨークも影響を受け、尊敬の念をはばかりませんでした。初期の名曲の『Creep』などにその面影を見ることが出来ます。

リリースから暫くは振るわなかったセールスも、アーティスト達の高い評価を得て好セールスを記録。1995年には来日公演も果たしています。

友達から借りたまま使っている、と語った Fender American Standard Telecaster を美しく激しく奏で、素晴らしい歌声で観衆を魅了するジェフ・バックリィ。

ライブの映像を観ても、カフェなど観客と近い距離での下積みから、MCなどの観客とのコミュニケーションも非常に魅力的でどんどん彼の世界に引き込まれていきます。

その後次回作の制作のために郊外の家を借り、アトリエとして作曲やレコーディングに励んでいた矢先の事故で彼はこの世を去ります。その後スタジオテイクなどがリリースされていますが、彼が仕上げたアルバムはたったの1枚になってしまったのです。

たった1枚のアルバムで、今もなお愛され影響をあたえ続けている彼の歌声。もしあなたが何か行き場のない思いを抱えているなら、繊細でロマンチック儚くも優雅、そして激情も持ち合わせた彼の純粋な魂に触れてみませんか。あなたにとっても大切な1枚になれば幸いです。

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Jeff Backley Grace Artwork
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