伝説的SF映画を彩る1985年と1955年のミュージックシーン
鮮烈なイメージを残したマーティのギターと当時のヒット曲
ハードロックとオールディーズの織りなす冒険
映画『Back to the Future(1985)』は言わずと知れたSF映画の金字塔的名作。友人のエメット・ブラウン博士(通称 ドク)によって名車デロリアンをベースに改造されたタイムマシンで、1985年から1955年へタイムトラベルしてしまったマーティ(マイケル・J・フォックス)が、両親の青春と関わりながらも1985年へ戻るまでを描いたSF映画史上最も人気のある映画のひとつで、3部作完結の作品です。
マーティが80年代のギターキッズという設定もありますが、Back to the Future の世界は50年代のオールディーズと80年代のハードロックサウンドに彩られ、音楽的にも楽器好きにも楽しめる作品となっています。
今回は、劇中に登場する楽曲と楽器を80年代と50年代、それぞれの時代からご紹介したいと思います。
→Back to the 80s…
Erlewine Guitars – The Chiquita
大きなティアドロップのサングラスの少年。巨大な壁の様なアンプにプラグインし、Overdrive ノブをグッと上げるクローズアップ…とても印象的なオープニングでスタートする本作。
この時主人公マーティが手にしていたのは、Erlewine Chiquita。アメリカのテキサス州オースティンのギターショップ、Erlewine Guitars のトラベルギターです。
この時マーティは最初のコードを弾いた瞬間アンプからの爆風で吹っ飛んでしまいましたが、何を弾こうとしていたのか気になりますね。このチキータは、現在でもErlewine Guitars で販売されているアイテムですので、気になる方は是非チェックしてみて下さい。
The Power of Love / Huey Lewis & The News(1985)
ダンスパーティステージのオーディションシーン。マーティが手にしているのは日本のブランド、Ibanez のギター。80年代人気を博したIbanez Roadstar II RS 430です。Ibanez は現在でもハードロックのみならず、様々なジャンルで評価の高いギターをリリースし続けています。
バンドが演奏するのは Huey Lewis & The News の 『The Power of Love』。本作の大ヒットと共にこの曲と挿入歌『Back in Time』は1985年のヒット曲になりました。
Out the Window / Edward Van Halen (1984)
マーティが防護服を着て宇宙人ダースベイダーに扮し、だらしない若かりし父ジョージに喝を入れるシーン。
ここでは80年代のギターキッズらしくポータブルカセットプレイヤーに入っているのはギターヒーロー、ヴァン・ヘイレンの楽曲。バンドにオファーがあった様ですが許可が出ず、エディ個人の許可を得てエディのソロプロジェクトであった1984年のコメディ映画『The Wild Life』のために書かれたトラックが使われています。
Van Halen は、1984年の大ヒット曲『Jump』で一躍スターになったハードロックバンド。1978年のデビューから、ライトハンド奏法やハミングバードピッキングなど革新的なプレイスタイルでエレキギターの概念を大きく変えたギターレジェンドです。当時はプロのギタリストですら、当初はどう弾いているのか全く分からなかったほど衝撃的なスタイルで世界を席巻しました。現在でもその影響は計り知れないものがあります。
→Back to the 50s…
Mr. Sandman / The Four Aces (1954)
1955年にタイムスリップしたマーティが、ヒルバレーの街に着いたシーンで流れるのは、『Mr. Sandman』 という曲で、『ロリポップ』などのヒットで知られるザ・コーデッツのテイクが1954年に大ヒット。
劇中で使用されているのは同年リリースされたザ・フォーエイセズのテイク。軽快なリズムとハーモニーで、一気に50年代へと誘ってくれます。
Earth Angel / The Penguins (1954)
劇中のダンスパーティ、『魅惑の深海パーティ』で演奏されるのは、1954年のヒット曲『Earth Angel』。手を怪我したギタリストに代わり、マーティがギターを務めて、両親のファーストキスを成功させます。
甘いバラードのこの曲のなか、なかなかキスに踏み切れない若かりし父ジョージ。両親が結ばれないタイムパラドックスから、存在が消えかかる中なんとかプレイを成功させ、未来への糸をつないだ名シーンです。バンドからプレイを認められたマーティは、バンドから何か一曲とリクエストされます。
Johny B. Goode / Chack Berry(1958)
そこでマーティがチョイスしたのは、1958年のヒット曲、チャック・ベリー『Johny B. Goode』。ロックンロールムーブメントの火付け役として知られ、この後のロックミュージックに多大な影響を与えました。
劇中では、マーティの演奏を電話越しにチャックベリーが聴くシーンがあり、奇しくもマーティが後のロックムーブメントを作った結果となりました。
Gibson ES-345TD Cherry with Bigsby
このシーンでマーティがプレイしているのは、Gibson ES-345。指板上のパラレログラムインレイとバリトーンスイッチ、鮮やかなチェリーフィニッシュが印象的で、ストップテイルピースを外しビグスビーアームが取り付けられているというディテールの凝りようです。
Gibson ESモデル(エレクトリック・スパニッシュの略)のTDシリーズ(シンライン&ダブルカッタウェイの略)発売は1958年、舞台は1955年で本来なら登場し得ないギターで、55年はまだフルアコースティックギターしか存在しませんでした。
しかし脚本の問題から当時の雰囲気を残したまま80年代的ディストーションプレイを実現する必要がありました。そこでハウリングに強いギターが必要で、セミアコースティック構造のESシリーズが採用された様です。
なおかつ80年代ハードロック必須のアームプレイが出来るように、当時のトレモロアームユニットであるビグスビーアームを取り付けられており、このシーンのオチに一役買っています。
Paul Reed Smith CE24
続編『Back to the Future 2(1989)』では、2015年のマーティがPaul Reed Smith のギターを手にしています。Paul Reed Smith がメリーランドでファクトリーをスタートさせたのが1985年ですので、創立からわずか4年でのスクリーンデビューでした。
このシーンで、Paul Reed Smith のギターは未来のギターとして、何の違和感もなく世界観に溶け込んでおり、現在でも最も先進的なギターのひとつとしてFender、Gibsonと並んでエレキギターの主要ブランドに数えられています。
『ギターってカッコいい』を教えてくれたマイケル
いかがでしたでしょうか。80年代を知らない方でも、80年代を体験した方でも、マイケル扮するマーティのギタープレイは、何だか楽しそうでカッコいいな、と思いませんか?
ES-335 の人気カラーは、今でもCherryがナンバーワンですが、エリッククラプトンの使用より本作でのマーティのプレイの方が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
そういった意味では、本作のヒットの影響もありこの作品とマイケル・J・フォックスが現在のギターカルチャーに与えた影響は計り知れないものがあります。
僕も思い起こせばギターってカッコいいな、と思ったキッカケはこの映画かも知れません。ハラハラドキドキの冒険と共に、時代を超えた音楽の素晴らしさを教えてくれる本作。皆さんがご覧になった時に新たな発見がありましたら幸いです。
2021年、マイケル・J・フォックス 生誕60周年記念で盛り上がるBTTF
主人公 マーティ・マクフライを演じたマイケル・J・フォックス(1961年6月9日生まれ)の生誕60周年を記念して、様々なアニバーサリーグッズがリリースされています。こちらのフィギュアは Ibanez Roadstar II RS 430 も再現されています。Gibson ES-345 のバージョンもリリースして欲しいですね。