轟くナイアガラ・ロールとアートブレイキーの咆哮。
The Jazz Messengers 第1期最後のアルバム
アートブレイキー&ホレスシルバーのケミストリー
『A Night at Birdland(1954)』での華々しいデビューから、The Jazz Messengers 名義になり『At the Cafe Bohemia (1955)』を経て、リリースされたのが、本作『The Jazz Messengers (1956)』です。1954年から練り上げてきたアートブレイキーとホレスシルバーのケミストリーが心地良く、アートブレイキーのドラムも非常にキレがあり、全編で疾走感溢れるプレイが楽しめるハードバップの名盤です。
前作『At the Cafe Bohemia (1955)』に引き続き、コアとなるアートブレイキーとホレスシルバーのコンビに、前作をもって脱退したケニードーハムに代わりトランペットはドナルドバード、テナーサックスにホンクモブレー、ベースにダグワトキンス。非常にまとまったサウンドながらスリリングなアレンジか楽しめます。
収録曲はテナーサックスのハンクモブレー、ピアニストのホレスシルバーによるオリジナル曲中心で、メンバーそれぞれのプレイが際立つスリリングな内容ながら、リラックスして聴くことが出来ます。
テナー・サクソフォンのミドル級チャンピオン、ハンクモブレー。
『テナー・サクソフォンのミドル級チャンピオン』と称されるテナーサックスのハンクモブレー(1930年7月7日 – 1986年5月30日)。19歳でローカルバンドで活動を始め、数ヶ月でディジーガレスピーやマックスローチと共演。歌心ある流麗な音色でハードバップを支えたサックスプレイヤーです。
ジャズメッセンジャーズが1956年に分裂すると暫くはホレスシルバーと演奏を続けましたが、数年後にはアートブレイキーと再び共演、1960年代初頭の彼のアルバムにもアートブレイキーが参加しています。本作を聴いて分かる通り素晴らしい作曲家でもありました。
ポスト・クリフォードブラウン。知性派、ドナルドバード。
ドナルドバード(1932年12月9日 – 2013年2月4日)はミシガン州デトロイトで生まれました。アマチュア音楽家でもあった父の影響から幼い頃から音楽に親しみ、高校を卒業するまでにすでにトランペットをマスターします。
その後バードは空軍に入隊し軍学隊で演奏、その後1954年にウェイン州立大学で音楽の学士号を取得しました。1955年にニューヨークに移り、マンハッタン音楽院で修士号を取得。そしてすぐにピアニストのジョージウォリントンのグループで演奏を始めました。 その年の12月、かつて彼のアイドルであったクリフォードブラウンやケニードーハムの後任として彼はジャズメッセンジャーズに招かれたのが本作です。
彼は1956年にジャズメッセンジャーズを離れますが、ハードバップの重要なプレイヤーとして活躍、自身の音楽活動の他に後進の教育にも尽力しました。
更に音楽活動はブラックミュージック全般に及び、彼の1975年のアルバム『Places & Spaces』はR&Bやファンクなどを大胆に取り込み、クラブジャズの原点となっています。
若き名手、ふたりの輝き。
本作を最後にアートブレイキーとホレスシルバーは袂を分かち、ジャズメッセンジャーズの名はアートブレイキーと共に生き続け、若いプレイヤーの登竜門的ユニットとして様々な若い才能を発掘し続けます。アートブレイキーが亡くなるまで、35年もの長きに渡り活動を続けました。
長いジャズメッセンジャーズの歴史のなかで、ダブルリーダーとして活動した第1期。後の輝かしい歴史も、この第1期ジャズメッセンジャーズあってこその輝きなのではないでしょうか。気に入って頂けたら幸いです。
The Jazz Messengers (1956)収録曲
Infra-Rae (Hank Mobley)
Nica’s Dream (Horace Silver)
アメリカの大富豪ロスチャイルド一族、パノニカ・ド・コーニグズウォーター、ニカは『ジャズ男爵夫人』と呼ばれ、自邸に才能あるジャズミュージシャンを集めセッションの場を作るなど、ジャズの普及に努めた女性。
チャーリーパーカーの死を看取り、セロニアスモンクなど才能のあるプレイヤーのパトロンになるなど、多くのジャズミュージシャンの女神的存在だった。この曲は様々なアーティストにプレイされるジャズスタンダードとして愛されている。
It’s You or No One (Sammy Cahn, Jule Styne)
サミーカーン、 ジューリースタイン作曲。1948年公開のミュージカル映画『Romance on the High Seas』のために書かれたジャズスタンダード曲。
Ecaroh (Horace Silver)
Carol’s Interlude (Hank Mobley)
The End of a Love Affair (E.C. Redding)
1950年ピアニストのエドワード・C・レディングが歌手のメイベルマーサーのために書いた曲で、ジャズスタンダード曲。
Hank’s Symphony (Hank Mobley)
ハンクモブレー作曲のこの曲は、アートブレイキーのドラムソロが大々的にフィーチャーされており、アートブレイキーの代名詞『ナイアガラロール』や、巧みなハイハットさばきなどが堪能出来る。ソロ中盤からアートブレイキーの唸り声までマイクが捉えており、非常に臨場感と躍動感を感じられるテイクになっている。
『At The Cafe Bohemia Vol.2(1955)』にも収録されており、聴き比べると非常に面白い。
Weird-O (Hank Mobley)
Ill Wind (Harold Arlen, Ted Koehler)
1934年テッドケーラー歌詞、ハロルドアーレン作曲のジャズスタンダード曲。この曲か収録されている、オランダの国民的歌姫リタライスのアルバム『The Cool Voice of Rita Reys (1956)』のバックバンドは、ジャズメッセンジャーズが務めている。