アームユニットのスプリング調整を完全攻略する

シンクロナイズド・トレモロもフロイドローズも、仕組みは同じ

仕組みが分かれば簡単!アジャスタブルなトレモロユニットのセッティング

プレイの幅を大きく拡げるアームプレイの世界

Fender ストラトキャスターに始まるフローティングセッティング(ブリッジのユニットが浮き上がった状態)を調整可能なアームユニットは、その後アームを用いたプレイスタイルの多様化により、フロイドローズを始め数々のバリエーションを生み出しました。

エレキギターの『ギューン!』と言う擬音は、エディ・ヴァンヘイレンを筆頭に80年代から主流になったアーミング・サウンドを最もイメージしやすいものでしょう。

日本ではアーム、海外ではワーミー・バーとも呼ばれる、ブリッジをグイグイ動かしてピッチをコントロールするテクニックは、今日でもエレキギター・サウンドの大きな魅力のひとつになっています。

ストラトキャスターに採用された『シンクロナイズド・トレモロ』をボディに着けてセッティングする、いわゆるベタ着けセッティングはエリック・クラプトンが使用する方法で今でも支持者が多いのですが、本来はボディからトレモロユニットが少し浮いた状態でセッティングする様に設計されています。

この様に弦高調整用のブリッジサドルのイモネジが、ボディ面に対してほぼ垂直になる様に設計されています。

このわずかにトレモロユニットが浮いた状態なのは、ギター背面のキャビティにある、ボディに固定されたスプリングとの綱引きの結果、バランスを保っているからです。

弦のゲージを変えたり、チューニングを変えるとセッティングが変わってしまう、ライブ中に弦が切れたらチューニングが全て狂う、などデメリットから敬遠されがちなアームユニット搭載のギターの調整。今回はこのアームユニットのスプリング調整についてご案内します。

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ばねの弾性力『フックの法則』

伸ばされるほど、縮む力が強くなるスプリング

物理の法則で、『フックの法則』というものがあります。ばねの弾性力の法則なのですが、Fkx という公式で表されます。簡単に言うと弾性力とは、伸ばされたところから元に戻ろうと縮むちからのことです。

F はスプリングの弾性力、k は『ばね定数』と呼ばれるスプリングの硬さ、x はスプリングの伸びた長さを表します。スプリングは伸びるほど元に戻ろうとする力が強くなるということを表しています。

トレモロユニットのスプリングは弦をチューニングすると弦の張力と共に伸び始め、F 値と弦の張力がイコールになったところでユニットの浮きが止まる、というのが基本的な考え方です。

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バランスポイントを動かすためのスプリングスクリュー

フックの法則で、スプリングが伸びる事で弦の張力とスプリングの力はつり合う、ということがお分かりいただけたと思います。

しかし、弦のゲージやチューニングを変えて弦の張力が変化すると、スプリングに必要な伸びの長さも変化します。そのため、トレモロユニットが沈み込んでしまったり、著しく持ち上がってきてしまったりするのです。

これを調整するために、トレモロスプリングの固定位置を変えて、バランスポイントを任意に動かすために、トレモロスプリング・スクリューがあります。

一般的なスプリング3本掛けのトレモロユニット

この様に、ギターのバックキャビティを開けると、スプリングハンガーがネジ2本でボディに固定され、ハンガーとトレモロユニットのスチールブロックにスプリングが装着されています。

ブリッジが浮きすぎているならボディ側に締め込み、ブリッジが沈みすぎているならスクリューを緩めます。スプリングの固定位置を動かすことで、弦とスプリングのバランスポイントが動き、任意の位置にフローティングさせることが出来るわけです。

ビンテージスタイルのスプリング5本掛け

ドライバーで締め込んでいくと、スプリングが伸び、弦を引っ張る力が増えてチューニングがシャープし、緩めるとフラットになって来ます。少しずつ任意方向にドライバーを回した後、もう一度弦をチューニングして下さい。

後はこれを繰り返して、好みの位置にバランスポイントを導いて下さい。

締め込み切ってもまだブリッジが浮きすぎの場合

『フックの法則』を使い解決する

締め込み切ってもまだブリッジが浮きすぎてしまう場合は、スプリングハンガーに引っ掛ける位置を変えて、スプリングをハの字にしてみましょう。3本のうち左右のスプリングを斜めにかけることで、スプリングの伸びた長さを変えて弾性力を強くします。

アームの挙動が力強くなるハの字セッティング

ハードロック系のギターでよく用いられるセッティングですが、同数のスプリングでも弾性力を強くすることが出来ます。もう少し返しが欲しいな、という時はこうすることでアーミングの際の復元力が増し、アームのフィーリングを変えることが出来ます。

スプリングの倍音にも注目

スプリングが持つフォルマントもギターのトーンのひとつ

トレモロユニットをフローティングにするメリットは、『弦振動に対してスプリングも共鳴する』ということです。スプリング由来の倍音により、サウンドに独特の余韻が生まれます。

また、スプリングのもつフォルマントと弦振動の倍音が共鳴すると、予想もつかない様なサスティンが生まれることがあり、これも醍醐味のひとつでしょう。

逆にこのスプリング鳴りを嫌ってスポンジなどでミュートしたり、ベタ着けにセッティングするのも狙ったトーンへ近づく道です。

またまだある、スプリングへのこだわり

スプリング自体の種類もたくさんリリースされており、ヴィンテージスタイルのテンションの緩いものや、焼きを入れて強度をあげたパワーのあるスプリングなど、様々なスプリングが発売されています。プレイスタイルや、狙ったトーンによってカスタマイズしていく楽しみもアームユニット付きのギターの楽しさなのです。

私自身は、愛用のストラトにはこのRaw Vintageのスプリングを5本掛けしています。ヴィンテージスプリングを再現しており、現代のものより少し柔らかいスプリングで、程よくスプリング由来の倍音がプラスされ、サウンドに奥行きが出てきます。

ちなみに、スプリング例の画像は筆者のギターですが、スプリングハンガープレートについている丸いボタンの様なものは、Swing Chipと呼ばれるパーツで、楽器の共鳴振動が適正化され楽器自体の演奏性能が向上すると言われています。私は色々な場所で試した結果、スプリングハンガープレートでの使用にしてみました。ご興味がございましたら下記よりご覧ください。

あなただけのトーンにたどり着くきっかけになれば幸いです。

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