【Jazz】A Night at Birdland Vol.1 / Art Blakey(1954)

暗中模索の中で見つけた光。

ハードバップの幕開けの音。全てはここから始まる。

何か新しいものを作り出す。新しい何かを始める。それは大変な苦しみもともなう行為で、中々重い腰が上がらないもの。それでも、人々が新しいものを生み出す事を止めないのは、その先に大きな喜びが待っているからではないでしょうか。

ひとりでは成し遂げられないと思った事も、仲間がいれば何とか乗り越えられたりするものです。苦労を共にした仲間がいれば、成し遂げた喜びは大きなものとなります。

今回は、現代ジャズのイメージを決定付けたハードバップの名盤『A Night at Birdland Vol.1 / Art Blakey (1954)』をご紹介します。暗中模索しながら仲間と見つけた新しい表現を、共に披露する喜びに満ちたアルバムです。

『ビバップ』とは

その前に、ビバップについてご説明しなければなりません。ハードバップ以前にジャズには『ビバップ(Bebop)』と言われるムーブメントがありました。

これは1940年代中頃から盛んになった動きで、西洋音楽理論に基づいた自由なインプロビゼーション(即興演奏)で楽曲を演奏する手法です。

プレイヤーの感じるまま、その場の盛り上がりや雰囲気に合わせてプレイするビバップは、チャーリーパーカー(tp)などが牽引し一世を風靡しました。

しかし加熱していくビバップムーブメントの中でプレイヤー達が腕を凌ぎ合ううちに、どんどん音数は増えていき、いかに多くの音を詰め込めるか、どれだけ演奏スキルが高いか、が主な価値観となっていきます。

その結果、楽曲のテーマやメロディ、ジャズが持つ豊かな表現が失われていきました。当時のアメリカではオールディーズなどのヒット曲も多く生まれた時代で、徐々に求心力を失ったジャズはメインストリームから外れて行きます。

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ジャズメッセンジャーズ誕生。

そしてハードバップへ

そんなビバップムーブメントのなか、腕を磨いていたドラマーのアートブレイキー、ピアニストのホレスシルバーを中心に何人かの入れ替えを経て、既に活躍していたアルトサックスのルードナルドソンとベーシストのカーリーラッセルが参加、そしてチャーリーパーカーの紹介で知り合った若く才能溢れるトランペッター、クリフォードブラウンが加わり、今回ご紹介するジャズメッセンジャーズが生まれました。

多くのミュージシャン、特に若手のプレイヤーはテクニックの競争に疲れ、楽曲やメロディを表現したいとの欲求が高まっていた当時、様々な試みがなされていました。

それでも突き抜けたのは、共に奏でる喜びに溢れた彼らの演奏だったのです。

1954年2月21日、彼らのお披露目はニューヨークのジャズの中心地でもあったジャズクラブ、『バードランド』にて行われました。楽曲としてのまとまりと、ビバップ仕込みのテクニックに裏打ちされたソロパートのスリリングさのバランスが、低迷していたジャズシーンに衝撃を与えたのでした。

『A Night at Birdland Vol.1 』収録曲

まさに時代の幕開けに相応しいイントロデュースから開幕する本作。『Sprit Kick』のオープニングから人気ドラマ ローンレンジャーでの名台詞、愛馬シルバーを呼ぶ『ハイヨーシルバー!』をもじったホレスシルバー作曲の『Quicksilver』やディジーガレスビーの名曲『A Night in Tunisia』などあっという間に過ぎていく熱気溢れる時間。聴きどころが満載です。

手法もさることながら、共に新しい手法で表現する喜びに溢れたこの演奏があったからこそ時代を動かすことが出来たのではないでしょうか。

楽曲のイメージを崩さないで、あえて手数を抑えて表現していく形のジャズは『ハードバップ(Hard bop)』と呼ばれ、この後様々なアーティストがこの手法を取って名演を生み出します。

そして、それぞれの道へ。

様々な理由が語られていますが、ジャズメッセンジャーズはこの後1956年のアルバム、『The Jazz Messengers』を最後にホレスシルバーが他のメンバーを引き連れるかたちで脱退し、アートブレイキーにはジャズメッセンジャーズの名義だけが残るという解散劇を迎えます。

その後アートブレイキー&ジャズメッセンジャーズは若手アーティストの登竜門として沢山の名プレイヤーを輩出し、ホレスシルバーも独自のファンキージャスピアノの道を進み名盤を残しています。

それでも歴史の中で燦然と輝きを放つのは、夢と野心に溢れたこの演奏だったのです。何かを成し遂げたい、生み出したい、そして現状を打開したい。そんなプリミティブな彼らのエネルギーのケミストリーが、今もこのアルバムを名盤たらしめています。

現状に風穴を開けたいと思いながらも中々行動に起こせない、勇気が出ない。そんな時にはいつも彼らの演奏を思い出します。なかなか越えられない大きな壁に負けそうになったら、是非聴いてみて下さい。気に入っていただければ幸いです。

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